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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

語り尽きない残り惜しさを滲ませていたが、光秀は、御免と会釈して、先に馬上の人となった。

秀吉も、鞍へ移った。

そしてこの門前から、双方の従者の列は、各※(二の字点、1-2-22)の主人を先にして左右に別れた。

安土の夜を行くには、松明も提灯も要らなかった。歳暮のせいか、町の灯は種々な色彩をもち、家々の灯は赤く道を染めて、春を待つ騒めきを靄々と煙らせていた。冬靄の空には、一粒一粒に、星が滲んでいた。

「この頃は、聞き馴れない唄や器楽が流行るのう」

秀吉は、家来にはなしかけた。従者のひとりがそれに答えて、

「この町に、南蛮寺が建ってからだそうです。異国の笛とか抱琴が入って来たばかりでなく、その音階に馴れて来て、これまであった歌謡の節や曲までが、何となく違って来たと申します」

「でも、洛中の六条坊門にも、南蛮寺はあったが、こんな風潮はなかったようだが」

「まだあの頃は、二、三ヵ国の宣教師しかおりませんでした。けれど近頃、この安土の町に住んでいる異国人の種類はたいへんです。皆が皆、宣教師ではありませんが、それが連れて来た家族やら召使やらを加えますと……」

――なるほど、辻へかかると、賑やかな雑鬧の中には、かならず異人のすがたが見えた。