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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

(勝頼公は、やはり信玄公ではなかった)

という認識を急にあらためさせたことが、後の重大な頽勢を醸す原因となっていた。

木曾福島を守る木曾義昌が、信玄のむすめ婿でありながら、方向一転を計り出したのも、

(勝頼には持ちきれぬ)

と、甲州の将来に見通しをつけ出したことに始まっている。彼は、美濃の苗木城の遠山久兵衛を介して、もう二年も前からひそかに款を安土の信長に通じていたのであった。

諏訪の高原から木曾福島へ、甲軍の部隊は、幾筋にもわかれて行った。

みな、往くときは、

「木曾勢のごとき、一揉みに踏みつぶさん」

と、大言して立った。

けれど、日を経て、諏訪之上原の本陣へ聞えて来る戦況は、一として、武田四郎勝頼父子に、会心の笑みを刻ませたものはなかった。いや、会心の笑みはおろか、

「なかなか、木曾も頑強です」

「福島の嶮岨を擁し、難所に奇計をもうけ、お味方の先鋒もまだそれへ近づくだに、よほど日数を要するものと見られます」

など、捗々しくない戦報ばかりであった。

「自身、その場へ、臨まぬことには――」

勝頼は、聞くごとに、唇をかんだ。彼の性格にあるものが、旺んに忿懣し、じりじりと埒のあかぬ戦況に業を煮やしはじめていた。