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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
「於松ではないか」
「はいッ」
官兵衛孝高の子、松寿丸は、半兵衛重治に伴われて、この平井山の味方へ初陣として加わって以来、もう幾たびか戦場も駈け、生れて初めて、鉄砲槍の中も歩き、わずかな間に、見ちがえるほど、気丈となり、骨太になり、また大人びていた。
七日ほど前から、半兵衛の容態が急変したので、秀吉は於松に向って、
(誰が枕許にいるよりは、そなたがいてやるのが病人にとっても欣しかろう。わしが看護してやりたいが、気をつかっては、却って病気によくあるまい)
と、自分に代る丹精を彼に命じておいたのである。
於松にとっても、半兵衛は、数年薫育をうけた恩人、また生命の親でもある。ここ昼夜その人の枕許に侍したまま具足も解かず、薬餌の世話に精根を傾けていた。
――その黒田松寿丸が今、これへ駈けて来るなり大地へ泣き伏したのである。直感に秀吉は、はっと、胸を衝かれた。
「泣いていては分らぬ。於松何事か」
わざと、叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)すると、
「おゆるし下さい」
と、於松は、籠手を曲げて、瞼を拭いながら、
「重治様には、もうものいうお力も弱られ、お生命は、こよいの夜半を持つまいとのこと。