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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
06 第六分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页
て、よも鬼神ではなし、かならず開悟一転、城を開いて、和睦を乞うて来ようかと考えられる。
ただし、これを行うには、潮時の測りが肝要である。晩秋、地には枯葉捲いて、天には孤月寒く、そぞろ兵の胆心にも、父母や弟妹への思慕と郷愁の多感なる頃をもって、最もよしとする。冬近きを思うにつけ、飢餓に迫っている城兵はいよいよ悲壮な哀腸を抱いて死の近きを覚悟しているにちがいない。これへ徒らに力攻を加えることは、むしろ彼らによい死場所と死出の道づれを与えるに過ぎないことになろう。ここしばしは、戦いもやめ、彼に静思のいとまを与えて然る後、それがしの書簡を送って、懇ろに、かつ真情をもって、敵の城主と家老をお説きあれば、おそくも年内には、落着を見ること疑いもない。
と、筆をすすめ、なお、
――成るか成らぬかなど、事に当るに先だって、自身から疑うようなことで、事の成るはずはない。
とも書き添えて、その実行を信念づけることまで忘れていなかった。
にも関わらず、幾分、成否を疑っているらしい秀吉の態を見て、官兵衛孝高は、遺書に見えない点を云い添えた。
「実は、その策について、半兵衛どの生前にも、一、二度語られたことはありましたが、時機でない、なお早いとて、見合わせていたものです。