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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
いくら主将の勝頼がうしろで、
「驀進せよ」
と、厳命しているからといって、絶対な不可能を知るとすれば、多大な犠牲も顧みずただ無理押しを繰りかえすわけはない。
「断じて破れる!」
の信念はあったのである。
なぜならば、当時の銃器は、一発を撃って、次の弾薬の詰替えが調うまでに、かなりな手数と時間がかかる。で――一瞬の弾丸雨飛が去れば、そのあとはかならず弾音がはたと歇むのだった。その間こそ、乗ずべき空間と、甲軍の部将たちは、死楯を惜しまなかったのである。
ところが、
信長はあらかじめ、その短所を考えていた。新武器の操作と共に、新しい用兵術を考究した。三千挺を保有する銃隊を、三段にわけて、第一段千人の銃手が撃つと、急速に、左右を開かせ、第二段の銃隊が前へすすんですぐ発射する。――同時にサッと開く、またすぐ三段隊が出る――というふうに、敵の希望して来た空間の的を、この戦いでは、まったく敵に与えなかったのである。
また木柵の所々に、出口がある。潮あいを測っては、柵内から柵外へと、織田、徳川の槍組は、「それッ――」と、ばかり甲軍の両翼へ突撃して来た。
進まんか、防柵や鉄砲に阻められ、退こうとすれば、敵の追撃、また挟撃に揉みつつまれ、さしも百錬を誇る甲州武者も、その勇をほどこす間隙もなかった。