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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
05 第五分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页
越前の主権者は変っても、庶民の中に根を張っている教団の勢力はみじん衰退しない。――いや、むしろ旧朝倉の残党や、大坂石山寺の本地との聯絡を強めて、その特有な奇変戦法は、信長の戦後の施政を、ズタズタに寸断して、その反抗は日ごとに露骨になっていた。
「――思い知らせむ」
と、信長はひそかに期していたにちがいない。
この苦手な敵ほど、信長の性格を意地悪く虐めたものはなかった。我慢、辛抱というようなことは、由来、信長の得意ではない。そのなし難いことを、この厄介な敵だけには、いつもじっと、怺えているからだった。
――だからいよいよやるとなってそれへ兵を発するや、叡山のようなことも敢えてやる、長嶋の如き殺戮をやっても顧みない。一向宗の討伐に向ったときだけは、信長もつねの信長でなかった。敵たる門徒の人々が憎み罵るとおり、まさしく彼の行為は、夜叉魔王そのものであり、その姿は悪鬼羅刹というもおろかなほどだった。
この戦陣の記録に見ても、
国中ノ一揆、スデニ敗亡イタシ、右往左往ニ、山々ヘ逃ゲノボリ候ヲ、仮借ナク山林マデ尋ネ捜シ、男、女ノ隔テニ及バズ、斬ツテ捨ツベキノ旨、仰セ出ダサレ、八月十五日ヨリ十九日マデ、諸手ヨリ搦メ捕ツテ進上サレ候分、一万二千二百五十余ト記スルノ由ナリ。