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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

(自分をさし措かれて――)

と、果ては、信長の処置に対してすら、怨みがましい愚痴をこぼしていたと伝えられた。

征西の途上。馬のうえで。

くすくすと、秀吉はひとり笑ったりした。坦々たる山陽の道に倦んで、ふと、そんなことでも思い出したか。

彼が、独り笑いを泛べたので、共に駒をならべていた竹中半兵衛が、

「なにか。御意なされましたか」

と、用でも聞きもらしたかと、念のため訊いた。

「いや、何でもない」

馬上の姿勢を、真直ぐに向けたまま、秀吉は顔だけをすこし横に振る。

その日、行軍の旅程は、すでに播州境に近づいていた。

「半兵衛」

「は」

「播州に入ると、そちには、ひとつの楽しみがあるぞ」

「はて。何事でしょうか」

「黒田官兵衛という男にそちはまだ会ったことはあるまい」

「ございませぬが、名は疾くから聞いております」

「近頃での人物だ。そちと出会えば、かならず百年の知己になるだろう」

「ははあ、うわさにも聞き及んではおりますが」

「御著の城主、小寺の家老の子、まだ三十二、三だが」

「このたび、中国入りのお手引も、悉皆、黒田殿の政略と、その下地あってのことと、お伺いいたしました」