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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

と相かわらず帷幕に務めて、少しも倦むところがない。

けれど、病身ということは、厳然たる事実である。いかに彼の精神力をもっても、或る程度以上はそれを克服し得るわけもない。

但馬からここへのあいだ、行軍中に豪雨の日がつづいた。その無理が出たのであろう、平井山に陣地をかまえてから、

「風邪気味」

と称して、秀吉に顔を見せない日が二日あった。

病の篤い日は、秀吉に顔を見せないのが、半兵衛の常であった。心配をかけまいとするのであろう。秀吉にはわかっている。

しかし、この数日は、昼間、笑顔さえ見せていたので、秀吉は久しぶり月下に膝をくんで語ろうとしたのであるが、月の光のせいばかりでなく、やはりまだどこかに勝れない色が彼のすがたに見えてならない。

主君の秀吉も、友の黒田官兵衛も、こうして一つ莚に月を賞しながらも、共に自分の病を気づかっていてくれるらしい容子を察して、

「おお、忘れていた……」

と、半兵衛重治は、わざと、急に思い出したように、話をよそへ紛らして、

「官兵衛どの。昨日、国許の家臣から参った消息によれば、御嫡子の松寿丸どのには、いよいよ健やからしく、また、馴れぬ周囲の者にも、ようやく懐いて、息災でおられる由、御安心なさるがよい」