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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

たまたま、信忠や他の将が、援軍に参っても、畿内や京地のうしろに不安があって、長居もできぬ有様ではないか。――そしてこの小寺政職などは、ただ信長、秀吉の手先につかわれ、兵馬糧米を徴発され、敵国への防壁としてのべつ苦戦をさせられておるに過ぎん。――あれほど信長に重用されていた荒木村重が、一転して毛利家と通じ、畿内の情勢をくつがえしたことに徴しても、織田家の前途は卜されよう。村重と共に、わしが、織田家を去ったのも、そういう明白な理由からじゃ」

「誠に味気なき御意をうかがいました。いまに御後悔なされましょう」

「おまえは若い。合戦には強かろうが、世事には」

「殿」

「なんじゃ」

「御翻意ねがわしゅう存じます。なにとぞ、お考えを変えて」

「そうはゆかん。村重と約を交わし、旗幟をあきらかにして、以後、毛利方へつくと、家中へも方向を闡明したものを」

「では、もういちど、御熟考を」

「わしを説くまえに、荒木村重を説いて来い。摂津守村重が、離反は思いとまろうというたら、わしも思い止まるであろう」

大人とこども。このちがいは理窟ではない。中国の新人とか、当代の智略とかいわれる官兵衛も小寺政職というものには、是非にかかわらず初めから頭のあがらない相手だったといえる。