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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

「はあ、今日は、帰りに立ち寄って、よく大賀どのから伺いまする」

番頭から叱言をいわれて、近藤平六は大いに恐縮した。その夕方彼は退出のもどりに、徳川家切っての出頭人、大賀弥四郎のやしきを訪ねた。

おそらく浜松にも岡崎にも、大賀弥四郎ほどな屋敷を構えていたものはなかったろう。

彼は、三河遠江三十余郷の代官だった。

また、地方吟味、税取立、岡崎浜松の勘定方や軍需品の買入役など、およそ経済方面の要務は、ほとんど兼ねているといっていい。

だから彼の門には、客が市をなした。外部はそうでもないが、一歩邸内にはいると、ここばかりは岡崎ではないようだった。

建築庭園にも、召使の男女の装束にも、都の華美がそのままある。

客があれば、かならず贈り品が一緒に入り、奥に通れば、かならず美酒佳肴が主客のあいだに出る。

「……どうも好かん」

主の大賀弥四郎が出てくるあいだ、近藤平六は、借物のように、豪奢な書院にぽつねんと待たされていたが、自分の加増という用向きで来ているくせに、心は甚だ楽しまない。

「やあ、失礼失礼」

出て来た。

弥四郎である。

四十二、三の巨男で、盤広な顔に黒あばたがいっぱいだ。