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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

破れ障子

破れ障子

十日前後から、この岐阜表へ、徳川家からの早馬は、日に何度となく着いている。

長篠の情勢を、刻々伝えて来るものであった。

同盟国徳川家の急は、ただちに織田家の急といえる。

岐阜城中の空気もすでに並ならぬ緊張を見せていた。

「即刻援軍を」

という家康からの要請は、書面でも、また家臣の小栗大六の口からも、つづいて急使として来た奥平貞能からも、火のつくように、信長を急きたてた。

「よろしい」

とは答えたが、信長はにわかに軍を動かそうともしない。

評議二日にわたった。

毛利河内は、その席で、

「所詮、勝算はありません。御出馬は無用」

と、諫めたが、また、

「いや、義に背く」

と、それを駁する者もあった。

佐久間右衛門などは、その中庸を行く説で、

「河内どののいわれるごとく、甲軍の精猛に当って、勝目の乏しいことは、歴々たるものですが、もし、御出馬を見合わすにおいては、徳川家の将士は、その不信を鳴らし、へたをすると、寝返り打って、甲軍と和睦し、鉾を御当家に向け直すような惧れがないとは限りません。――ここは、とまれ、消極的な御加勢をもって、一時の責めをおふさぎになることが、最善と存ぜられますが」