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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

09 第九分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,757 字 · 375 页

青空文庫

父の若狭守は、勝家の前へ、こう平伏していた。

「愚息新五郎こと、永々御恩禄を喰みながら、病のため、柳ヶ瀬表へも、御供つかまつらず、このまま、家にあるのは、無念と申し、薬餌に別れをつげて馳せ参りました由。――何とぞ伜めにも、明日最期の御供、おゆるし下しおかれますように」

勝家は感動に盈ちた気色をうごかして、新五郎をひとみで招き、

「主従は、二世ぞ」

と、即座に杯を与えた。

この病若武者は、翌日、追手門の扉に、

小島若狭守男新五郎十八歳

柳ヶ瀬表に不参たりといえども今日忠義を全うする也

と大書して、猛火と乱軍の中に奮戦し、生来の病骨も、その終りを、義に孝に、薫々たるものとして果てた。

さきには毛受家照あり、いま小島新五郎があり、亡家の中にも、不亡の士魂は少なくなかった。

かかる士魂を多く擁しながら、遂に、大厦の崩壊を坐視のほかなき態にあった勝家の、家長としての自責は蓋しどのようであったろう。――燭は三更、宴はまだ果てず、幼い息女たちは、母の膝に凭れたり、居眠ったりし始めていた。

息女たちには、この宴も、やがて退屈にたえないものとなっていたらしい。

末の姫は、いつか母の膝を枕にすやすや眠り入っていた。