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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

親たちが横浜の叔父の方へ引き寄せられて、そこで襯衣や手巾ショールのような物を商うことになってから、東京にはお庄の帰って行くところもなくなった。お庄は襷をかけたままそこの板敷きに腰かけて、眠いような、うッとりした目を外へ注いでいたが、胸にはいろいろのことがとりとめもなく想い出された。水弄りをしていると、もう手先の冷え冷えする秋のころで、着物のまくれた白脛や脇明きのところから、寝熱りのするような肌に当る風が、何となく厭なような気持がした。

お庄は雑巾を絞ってそこらを拭きはじめたが、薄暗い二人の寝間では、まだ寝息がスウスウ聞えていた。

お庄は裾を卸して、寝床の下の方から二階へ上って行くと、押入れのなかから何やら巾着のような物を取り出して、赤い帯の間へ挟んだが、また偸むようにして下へ降りて行ったころに、亭主がようやく起き出して、袖や裾の皺くちゃになった単衣の寝衣のまま、欠をしながら台所から外を見ながらしゃがんでいた。

お庄は体が縮むような気がして、そのままバケツを提げて水道口へ出て行った。泡を立てて充ち満ちて来る水を番しながら考え込んでいたお庄は、やがて的もなしにそこを逃げ出した。