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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

十八

「そんな金があるなら、子供に簪の一本も買ってやればいい。」母親は見向きもしないで、二階から下って来た膳の上のものの始末をしていた。

「それアまたそれさ。来る早々からぶすぶすいわないもんだ。」

お庄が弟を負って、裏口から酒を買って来たころには、二人の言合いも大分募っていた。お庄は水口の框に後向きに腰かけたまま、眠りかけた弟を膝の上へ載せて、目から涙をにじませていた。

父親が自分でつけた酒をちびちびやりながら、荒い声が少し静まりかけると、主婦がまた母親を煽動けるようにして、傍から口を添えた。

やがて父親は酒の雫を切ると、財布のなかから金を取り出して、そこへ置いた。

「私はこれから、浜の方へ少し用事があるで……持って来た金は皆ここへ置きますで……。」

主婦は鼻で笑った。

「行けアまたいつ来るか解らないで、子供を持って行ってもらったらよからずに。」

「子供をどうか連れて行っておもらい申したいもんで……。」と、母親も強いような調子で言った。

父親の出て行くあとから、お庄は弟を負せられて、ひたひたと尾いて行った。

十八

父親は時々途に立ち停っては後を振り顧った。聖堂前の古い医学校の黒門の脇にある長屋の出窓、坂の上に出張った床屋の店頭、そんなところをのろのろ歩いている父親の姿が、狭い通りを忙しく往来している人や車の隙から見られ