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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

七十五

お庄は薄暗い隅の方のベンチに腰を卸しながら、上り下りどっちの切符を買おうかと思案していた。

七十五

その晩お庄は本郷の方に泊った。

ちょうど正雄が来合わせていて、姉弟は久しぶりで顔を合わした。正雄はこれまでにも二度ばかり親方を取り替えた。体の弱いので、あまり仕事の劇しい家では、辛抱がしきれなかった。お庄はそのたびに弟をつれて、前の主人へ話をつけたり、新しい洋服店へ交渉したりした。今の家は女主であった。その主人はお庄のところへも遊びに来て、一緒に花など引いたこともあった。

正雄は脚気で蒼い顔をしていた。お庄の変った様子を見て、にやにや笑っていたが、お庄も弟の様子がめっきり落ち着いて来たと思った。

「医師が転地しろと言うそうで。」と、母親は一番体が弱くて可愛い正雄のことで先刻から気を揉んでいた。

「しばらく田舎へでもやらずかと思うけれど……そうすれば叔父さんも一緒に行くと言うでね。――叔父さんも梅雨が体に障ったようで、あれからずッと工合が悪いで、どうでも田舎へ帰ると言って、今その支度中さね。」母親は火鉢に凭りかかっていながら、屈托そうな顔をして、火箸で火を弄っていた。