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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

徳田秋声『日本の文学 9 徳田秋声(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:新世帯、足迹、黴、爛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 页

青空文庫

お袋の耳へ入れば、どうせ一騒ぎ持ち上らずには済まないだろうし、もう長くはここにもいられないような気がしていた。書付けばかり持って帳場へ行くのも厭であった。

お庄は勘定前を合わそうと思って、帯の間の財布から自分の小遣いをさらけ出して、磯野の置いて行った祝儀と一緒にしているところへ、芳太郎が入って来た。お庄は急いで財布を帯の間へ挟んだ。

「情人でも何でもないものなら、お前が自腹を切る謂われはないじゃないか。家だってお前の親類の人から、勘定を取ろうとは言やしまいし。」芳太郎はお庄の側へ来て、胡坐を掻いていながら言った。もう飲口を捻って二、三杯呷って来たらしかった。

「それアそうですけれどもね、そうしないと私も何だか厭ですから。」とお庄は気味悪そうにそこらを片着けはじめた。

「まアそんなことはどうでもいいや、お前にごまかされるような己じゃないんだからな。」

「それはそうですとも。私もこんなつもりでこちらへ来たんじゃないんですよ、話と実際とは、随分違っていたんですからね。」

がちゃがちゃと軍刀の音をさして、いつも来て飲む大隊の方の将校が、二人門の方から入って来て、縁側へ腰かけて靴を脱いだころには、芳太郎もお庄も大分頭が熱していた。