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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
綾子がただ一人で自動車に乗ったとすれば、想像していたような誘拐ではなく、自由意志と見るほかはなく、したがって彼女は逃亡したということになるからであった。
ああ、やっぱり綾子は恐ろしい罪を犯していたのであろうか。その罪の発覚を恐れて身を隠す決心をしたのであろうか。
伊志田氏と一郎とは、それを口に出して言うことはできなかったが。不安に耐えかねて、青ざめた顔を見かわすのであった。
それから三十分ほどのち、その運転手が、自分の車に監視の警官を乗せて、伊志田邸に到着した。
三島刑事は運転手を応接間に呼び入れ、伊志田氏に綾子の写真を借りて、それを見せると、
「その娘さんはなんだか顔を隠すようにしていたので、はっきりしたことは言えないけれど、この人とよく似ていたように思う」
との答えであった。なおいろいろ質問したが、電話で聞いていた以外には、これという新しい申し立てもなかった。
そこで、二人の刑事は、伊志田氏に暇を告げ、監視の警官と共にその自動車に乗って綾子らしい女の下車した場所を確かめるために出発した。
途中別段のこともなく、車は京浜国道を、一直線に走って、高輪を過ぎ品川に近づいていた。