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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

今はそれよりも、もっと急を要することがあるのです」

「エッ、急を要するとは?」

「ちょっと、その懐中電燈をお貸しください」

明智は三島刑事のさし出す電燈を受け取ると、それを振り照らしながら、穴蔵の奥へ進んで行った。

「ごらんなさい、あれを」

懐中電燈の光がコンクリートの壁を照らしていた。そこに十字架上のキリストのように、磔刑になっている人の姿があった。

シャツ一枚のはだかにむかれて、大の字にひらいた両の手首と足首を、石壁にとりつけた太い鎖に縛られて、グッタリと頭を垂れている人の姿があった。

明智はそこへ駈けよって、電燈の光で調べていたが、

「大丈夫、まだ死んではいません」

と安堵の声を漏らした。

「いったいそれは誰です」

「ごらんなさい。この家の主人です」

下からの光で、うなだれた顔を見ると、意外にもそれは伊志田鉄造氏であった。苦痛の余りほとんど失神状態となっていたが、人々の声と、まぶしい光に眼を見ひらいて、なぜか烈しい恐怖の表情を示した。口には猿ぐつわをはめられていて、物をいうこともできないのだ。

伊志田氏の磔刑になっていたのは、足先が地上から三尺も離れているほど高い場所なので、何か台がなければ助けおろすこともできなかったが、幸い、すぐそばにキャタツがほうり出してあるのを見つけたので、三人はそれを立てて、いろいろ