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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
狂人の幻想
骨を折って伊志田氏を地上におろし、猿ぐつわもはずしてやった。
伊志田氏は明智に助けられたことは充分意識している様子であったが、立っている気力もなく、グッタリと地上に倒れて、何かわけのわからないことをつぶやきながら、力ない手で、しきりと穴蔵の一方を指さすのであった。
明智は、伊志田氏が何か言おうとしているのかを確かめるために、その指先の示す方角へ、懐中電燈を振り照らした。
「おやっ、あすこにもなんだか人がいるんじゃありませんか」
北森氏が目早くそれを見つけて、あっけにとられたように叫んだ。伊志田氏の縛られていた反対がわの壁に、もう一人の人物が磔刑にされている姿が、電燈の丸い光の中に、もうろうと浮き上がっていた。
狂人の幻想
そこに磔刑になっていたのは、男ではなくて、洋装をした若い女であった。猿ぐつわをはめられ、両手両足を鉄の鎖で縛られ、乱髪の頭を垂れて、死人のようにグッタリとなっていた。
人々はアッと声を立てて、その女の前に駈け寄り、電燈の光を顔に当てた。
「やっぱりそうだ。これは綾子さんだ。綾子さんは最初からここに監禁されていたんだ」
明智は当たり前のことのようにつぶやいたが、北森氏と三島刑事は驚きを隠すことができなかった。