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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
明智はそのものに向かって、何か言葉をかけようとしたが、思いとどまった。それではこちらの負けになってしまう。だまっている方がいい。だまって相手の出ようを見守っている方がいい。
夕闇の中に、息づまるような烈しい無言の闘争がつづいた。互いにそれを知っていたのだ。そして、脂汗を流しながらだまり返っていたのだ。明智は武器を持たなかった。相手は少なくとも一とふりの短刀を持っているはずだ。探偵のがわには一段の精神力が必要であった。
睨み合いは、結局、犯人の負けであった。それほど明智探偵は落ちつきを失わなかったのだ。犯人はおそらく、ただ凝然と見つめられている無気味さに堪えられなくなったのであろう。カーテンがひときわ烈しく揺れはじめた。そしてその蔭から、サッと黒いものが姿を現わし、風のようにドアに向かって走った。
それは巨大なコウモリのようなものであった。とっさには見分けることができなかったが、あとで考えてみると、その怪物は頭部全体に黒布を巻きつけ、両眼の部分だけに小さな二つの穴をあけていた。ダブダブのインバネスのようなもので、全身を包んでいた。その裾がすっかり足を隠していたのを見ると、人並よりは背の低いやつのように思われたが、もしかしたら、足を曲げて、わざと低く見せているのかもしれなかった。