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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

「でも、僕は安心ですよ。先生がいつも僕のそばについていてくださるんですもの。もうあいつがきたって平気ですよ」

三角ひげの医師は名探偵明智小五郎の変装姿であった。一郎青年と主人伊志田氏とのたっての頼みを拒みかね、主治医の友人というふれ込みで、有本医師と名乗って一郎の看病と護衛のために、当分、邸内に泊まり込むことになったのである。その秘密を知っているのは、当の一郎青年と伊志田氏と主治医の三人だけで、他の家族や召使いたちは明智をほんとうの医師と思いこんでいた。明智は変装嫌いではあったが、決して変装下手ではなかったからだ。

明智は負傷者一郎青年に、異様に惹きつけられていた。最初彼が探偵事務所を訪ねてきた時から、そのたぐい稀なる美貌と、陰火のような押し殺された情熱が、探偵の心を打った。嫌いな変装までして、伊志田邸に泊まり込むことになったのも、この美青年の不思議な牽引力によるものであった。

しかし、探偵がこの異例な挙に出でたのは、ただそれのみのためではなかった。彼は風変りな伊志田家そのものに妙な興味を抱いていた。この古風な西洋館の中には、何かしら廃頽的な、まがまがしい匂いが満ちていた。