轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
怪物はなぜ逃げ道もないこの部屋に隠れたのだ。これまでの手際でもわかるように、犯人はそれほど無考えなやつではない。もしかしたら、彼は逃げると見せかけて、明智をここへおびきよせたのではないだろうか。さすがの名探偵もそこまでは考え及ばなかった。怪物を追いつめた興奮に夢中になっていた。
「おい、もうだめだよ。君は袋の鼠だ。さあ、そんな所に隠れていないで、ここへ出てきたまえ」
明智はいつもの癖で、まるで友だちにでも対するようにおだやかに声をかけた。
相手は答えなかった。答える代りにカーテンの隙間から、あの無気味な覆面の顔をヌーッと出して、クックッと笑った。男とも女とも、老人とも、若者とも、判断のつかぬ異様な声でクックッと笑った。
おお、なんという大胆不敵なやつだ。顔を出したばかりでなく、彼は黒マントの全身を現わして、逆に明智の方へジリジリと詰めよってきた。二人のあいだは三尺とは隔たぬ近さになった。相手の肩が呼吸のたびに静かに動いているのがわかる。
怪物はさらに一歩前進した。そして、コウモリのようなインバネスがフワリと揺れたかと思うと、おお、あの匂いが、ヘリオトロープの匂いが、ほのかに明智の鼻孔をくすぐった。