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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

邸内の人々は一人一人取調べ、あらゆる出入口を検査したが、黒い怪物はどこから侵入し、どこから逃げ去ったのか、まったく不明であった。庭にも足跡らしいものさえ残っていなかった。

悪魔は一郎青年を傷つけ、名探偵を倒し、ついに伊志田夫人の生命を奪ったのである。主人の伊志田氏はもとより、家族のものの悲歎と恐怖とは極点に達した。

何よりも恐ろしいのは相手の正体がまったくわからぬことであった。今の世に妖怪を信じることはできないが、やはり妖怪の仕業とでも考えるほかには解釈のくだしようがなかった。頼みに思う名探偵さえ病床の人となってしまった。警察もこれという意見を立て得ない様子である。今は神仏に頼りでもするほかには、この恐怖をまぎらす手段もないような有様であった。

そういう頼るところもない不安と焦慮のうちに、三日間が過ぎ去って行った。それでも、君代の葬儀がすむまでは人の出入りも多く、邸内がざわめいていて、何かと気もまぎれていたが、それもすんでしまうと、いよいよ堪えがたいさびしさがおそってきた。古い西洋館の隅々に悪鬼の怨念が潜んでいるかと疑われ、殊にあの三階の円塔は、魑魅魍魎の棲みかのようにさえ思われて、誰もその付近へ近よるものもない有様であった。