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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
今までの暗さに比べて、まるで真昼のように明かるかった。
「どうして止すんだ。つづけてやればいいじゃないか」
家族たちの一方の端に腰かけていた人物が、美青年を詰るように言った。その人物は、さいぜんスクリーンの中を歩いていた、あのでっぷり太った、口ひげのある五十恰好の紳士であった。この家の主人伊志田鉄造氏である。
「でも、お父さま、僕、なんだかいやあな気持なんです。恐ろしいのです」
スクリーンで見たと同じ、あの凄艶といってもよいほど美しい、ダブル・ブレストの青年が映写機のそばを離れながら、青い顔をして答えた。
「恐ろしいって?」伊志田氏は又かと言わぬばかりの苦い顔をした。「一郎、お前このごろどうかしているんじゃないのかい。病気なのじゃないのかい。妙なことばかり言っている」
「ほんとうよ。一郎さん病人みたいよ。まっ青だわ」
これも今スクリーンで見たばかりのあの美しいお嬢さんであった。この家の長女、美青年一郎の姉、綾子である。
「僕のこの気持は、なんといって説明していいかわからないのです。前兆としか考えられないのです。僕たちのこの家に、何かしら恐ろしい禍の起こる前兆としか考えられないのです。