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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

しかし此方こそ態を見てしまいました」

「駄目ね」

「尤も気がついたところで仕方がなかったんです」

「馬鹿にされるよりも宜いでしょう。先方は横手を拍って笑っていますわ」

「忌々しいな、これは」

「私もつい油断があったんですわ。あなたについて上れば宜かったんですけれど」

「しかしこれは吉川君一人の智恵でしょうか?」

「いゝえ。丸尾さんの奥さんの差金よ。あの方、悪智恵の問屋ですわ」

「僕は吉川君と同じ学校を卒業したんですから、こんなに違うとは思いません」

「呑気なことを仰有っていますのね。学校で教える学問とは一緒になりませんわ」

「劈頭第一に一発食ったんですから、撃沈されないまでも、これは形勢に関係します」

「宜いわ。私、この敵は屹度討って上げますから」

と大谷夫人は歯ぎしりをしないばかりだった。安達君は自分の不敏の致すところと考えて気の毒でならなかった。間もなく女中の注進があった。

「奥さま、橋本さんのお嬢さまが唯今お帰りになりました」

「よし」

と安達君は二階へ駈け上ったが、もう晩かった。表をチンドン屋が通っていた。

もう一方、吉川君は一時間余り前に橋本家を辞し去ると直ぐ、宙を飛ぶようにして、丸尾家をおとずれた。