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きゅうこんさんじゅうし
求婚三銃士
佐々木 邦
「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页
毒瓦斯の利き目
瀬戸君は昨今可なり形勢が好かったのである。溝淵閣下のところへ行けば、相変らずだと言っていても、それは閣下なり夫人なりに出動を願いたいからの駈引で、自分では遙かに吉川君と安達君を凌いでいる積りだった。手心が分って来た。佳子さんは頭の好い証明よりも軽い世間話を喜ぶ。修身講話よりも冗談の方が応接間に調和する。それで昨今は大いに心掛けている。
「佳子さん、面白いお話があるんですよ」
と瀬戸君は間もなく取りかゝった。
「何あに?」
「僕は今日は学校の帰りを校長のところへ引っ張られて、晩餐の御馳走になったものですから、もう少しで後れるところでした」
「丁度キッカリよ」
「その代り面白いお話を聞いて来ました。僕の方の校長は酒飲みです。或晩、酔っ払って、円タクに乗ったんです。乗ったと思うと、よろけて、もう一方の入口から外へ落ちてしまいました。酔っていると時間の長短が分らないんだそうです。もう家へ着いた積りで、『幾ら?』と運転手に訊きました。『一円』『宜しい』自動車は只儲けをして走って行ってしまいました。校長は元のところで頻りに家を探していました」
「秀逸ね」
「これで酔っても本性を違えないと言って自慢している先生ですから、恐れ入ります」