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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「林さんです」

「僕も林さんに習いました。先生あれから十五年一日の如く同じ講義をしているのかも知れません。ノートを一寸拝見しましょうか?」

「さあ。友達に貸してあるんです」

「ハッハヽヽ」

「本当です。吉川君が持って行ったんです」

という安達君の主張は自分の耳にも覚束なく聞えた。具合が悪いと思って頭を掻いたら、益※(二の字点、1-2-22)告白のようになってしまった。

「駄目よ、安達さんは。去年好かったと仰有って、悉皆調子を下していらっしゃるんですから」

と奥さんが側から余計な口を出す。

「勉強し給えよ」

「はあ」

「好い成績を取って置かないと、就職の時に困ります」

「はあ」

「数が多いんですから、中以上でないと問題になりません」

「はあ」

と安達君は一々頷く。そうしてその当座は相応努力する。極く当り前の学生だった。

大谷さんは学校の事情に通じているばかりでない。

「安達君、僕はこの間同窓会で横山君に会いましたよ」

「横山先生ですか? 会計学の」

「えゝ。あの人は僕と同級です」

「はゝあ」

「君のことを頼んで置きましたよ」

「これは怠けられない」

というような次第だった。

安達君は可もなく不可もない成績で卒業したけれど、就職の考査に再三失敗した揚句、大谷さんが○○銀行に勤めている関係から、その肝煎りで○○信託へ入れて貰ったのである。