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きゅうこんさんじゅうし
求婚三銃士
佐々木 邦
「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页
「何か好いことがあるんですか?」
「それは申上げません。私は大谷夫人と違って、縁の下の力持になる外に、何の取柄もない不束ものでございますから」
「恐れ入りました。しかし何ですか?」
「意地にも申上げられません。その折、何うぞお慌てになりませんように」
「はてな」
日曜の朝、吉川君は例によって晩かった。一週一回の休日は先ず朝寝から楽しむ。二階の書斎を一国一城として、干渉を許さない。独り息子だから、万事我儘一杯だ。しかしいつにないことに女中が起しに来た。
「若旦那さま」
「何だい?」
「奥さまが……」
「煩いよ。今日は日曜だ」
「お客さまがお見えになりましたから……」
「誰だい? 煩いな、朝っぱらから」
「橋本さんのお嬢さまでございます」
吉川君は飛び起きた。大変々々と呟いて、階段を駈け下りた。顔を洗う。安全剃刀でガリ/\やる。寝乱れた髪を頻りに梳る。漸く端正な容になって応接間へ急ぐ途中、部屋から出て来たお父さんに突き当る。失礼々々。佳子さんはお母さんと話していた。
「やあ。これは/\」
「朝からお邪魔に上りました」
「ようこそ。先日は失礼」
「私こそ」
「さあ。何うぞ」
お母さんは気を利かして、間もなく引き退った。