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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「考えてばかりいらっしゃると、自動車に轢かれますから」

「何を考えるんですか?」

「後から母が申上げましょう」

「はゝあ?」

と声を筒抜けさせて、安達君は椅子から少し辷った。断りを言われると思ったのだった。脚が震えた。

「私……」

「はあ?」

「決心がつきましたの。吉川さんの方、お断り致しましたの」

「本当ですか?」

「あらまあ! オホヽヽヽ」

と佳子さんが笑い出した。安達君は乗り出す拍子に椅子から辷り落ちたのだった。後からその時の心理状態を説明した。撃退の前触れと覚悟して中腰になっていたところへ意外の吉報だったから、つい重心を失ったのだという。

それから一月ばかりたって、溝淵閣下が橋本家を訪れた。以来御無沙汰していたが、佳子さんと安達君の縁談がイヨ/\纒まったと聞き知って、お祝いに罷り出たのである。切り口上で慶びを申述べた後、

「実は橋本閣下、これから先は坊主になって申上げなければならないのですが、この禿頭に免じて、特別の御用捨を願います」

「何ういうお話ですか?」

「切腹ものです。面を被って伺いました」

「閣下はこの前にもその通りのことを仰有られたように覚えていますが、一体何ですか?」