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きゅうこんさんじゅうし

求婚三銃士

佐々木 邦

「講談倶樂部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年10月~1935(昭和10)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,326 字 · 330 页

青空文庫

「久しぶりですな」

「何うですか?」

「有難う。何うにか斯うにか」

「君は何処ですか?」

「○○信託です」

「はゝあ。好いところへ入りましたね」

「君は?」

「松竹興行です」

「はゝあ。芝居が只見られますね」

「それぐらいが役徳ですよ。君の方は待遇が好いでしょう?」

「いや、駄目ですよ」

「失敬ですが、お幾らですか?」

「五十五円です。君はもっと好いんでしょう?」

「好くても知れたものです。六十円です」

「相場でしょうね、この辺が」

「駈け出しは何処も似たり寄ったりです。僕の方は五十、五十五、六十と刻んであります。僕は少し徳をしました」

「成績が好かったからでしょう?」

「さあ」

「ボーナスは幾つですか?」

と会話は必ず待遇問題だ。急いでいても、勤め先と月給とボーナスを確めてから別れる。学生ではない。学校時代には学科の点数が主な屈託だった。点数を余計せしめるものを秀才と認めて、これに敬意を表した。しかし今はサラリーマンだ。人間の値打が金で定まるものでないという理窟は万々承知していても、差当りサラリーの多寡が尺度になる。

「やあ」

と或日安達君は百貨店のエレベーターの中で級友に対面した。