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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

遅れた君のためもう一台出すわけにゃ行かぬから、君だけ今日は――ウム市庁へ行ってきたまえ」

「ハア、市庁へですか」

「そうだ、市庁へ行って、あすこの事務管掌といわず、議場その他、内部の構造物も一と通り見学して来たまえ。どうせそのうちに行かにゃならんのだから……」

遅刻が祟って、僕は嘸や面白かろうと思う刑務所見学の仲間から外れ、ただ一人、面白くもない、市庁の見学に赴くこととなった。でも、この検事局にいて、また部厚い和紙綴じの調書の上に涎の宝石を作るよりは助かるので、云われるとおり出かけることにした。

市庁は近いので、僕はブラブラ歩いていった。春はまだ寒く、それに空模様はいよいよ悪くなって、どう見ても雪雲としか見えぬのが、ビルディングの上に低迷していた。スキーの味を知らぬ僕は、雪雲を見て腹が立つばかりだった。

もうすぐ埋立地の方へ移転することと決っていた市庁は、外から見たところ、まるで鼠の入れ物か妖怪屋敷のようにひどく汚れていた。それでも夥しい人の出入りが目についた。なにを騒いでいるのか、誰の顔にも笑いの筋一本も見えず、皆云い合わせたように、深刻極まる顔付をしていた。