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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

市長の鍵で開けても明かないのですか」

「あああ、――イヤ実に参った。実はその『市長の鍵』をどこかへ失してしまったか、盗まれたかしたのだ。昨日になってそれに気がついた。……イヤ弱り果てたよ、中谷君」

「そいつは全く困りましたネ。ここへ来て『市長の鍵』がないじゃ、どうにも納りがつかないじゃありませんか」

と激昂の助役の声に、二人の話はハタと杜絶えてしまった。このT市の首脳部の両人が、蒼白になって睨み合っている光景が椅子の背後を透して見えるようであった。

「オヤ、あすこに誰か居るんじゃないか、中谷君!」

突然市長の声がした。さあもうどうすることも出来ない、百年目である! 僕は覚悟を決めた。名乗りをあげてT市長の面前に立とう。……しかしT市長! 本物の市長なのだ。「深夜の市長」とは訳が違う。そして「深夜の市長」は失踪しているのだ。もしも向い合って立って、有名な写真嫌いの市長の顔が、万一「深夜の市長」の顔に似ていたら、僕は一体どうしたらいいだろうか、僕の全身は火の塊でもあるかのように、ありとあらゆる毛穴から熱汗を噴きだした。

14

「おお、君は誰だ!」

僕は中谷助役のために椅子の蔭から摘みだされた。