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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

これまで針の莚にいるような気持で、役所づとめをしていたのが、我が身ながらいじらしくなってきた。そうだ、満足に勤めようと思えばこそハラハラいじけているのだ。どうせ先が駄目なものなら、ここらで一番思い切って暴れてからオン出てやろうではないか、太く短く――そうだ、なぜそれを今まで考えなかったろう。

僕は俄かに両肩の欝血が取れてきたように思った。

さあ、こうなると、もう今までのように引込み思案ばかりはしていないぞ。なんでも華々しい最後を飾って散るのだ! たとえば「深夜の市長」事件なんて、いままでビクビクしていたが、あれだって考えて見れば実に変な存在だ。帝都治安上許しておけない存在だ。よし! 積極的に調べてやろう。

そのとき僕は、さっき市長が僕に云った変な言葉を思い出した。

(総監閣下によろしく……)といったが、実に総監閣下とは何ごとであるか、仮りに検事局に身を置いている自分に、検事正によろしくとか、検事総長によろしくとかいうのなら分っているが総監閣下へよろしくは無い。どうやらそれは警視総監のことを云っているのだろうが、市長さん狼狽したりと雖も、管轄を間違えるとは何であるかといいたくなる。