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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

僕はその灯の明りを借りて、買った夕刊にザッと眼をとおした。そこには何か「深夜の市長」の失踪に関する記事がありはしないかと思ったからだ。だがその期待は美事に外れて彼の老人と関係のある記事は一行半句見当らなかった。

「出てないかなア」

というと、夕刊売りの少女の顔が、泣き出しそうにゆがんだ。彼女は何か勘違いをしたのだろう。

「イヤ君、君から買った夕刊が悪いというせいじゃないよ。……別のことだから……」

すると焼き大福売りの水兵服嬢がエヘンと変な咳払いをした。僕は彼女の眼の中に或る敵意をさえ認めた。仲間の夕刊売りを苛めているとでも誤解しているのだろう。

「……僕は『深夜の市長』を探している者なのだ。どうだネ、君達、『深夜の市長』の噂を知らないかネ」

深夜の河岸ぷちでささやかな商売をしている彼女たちも、「深夜の市長」の袖にすがっていることと思い、それを云ってみたのだった。すると、水兵服嬢は意外にも突然眼鼻を一つにして白い歯を剥きだした。

「――『深夜の市長』? ああ、誰があんな悪魔の行先なんか知るもんですか」

「ナニ、『深夜の市長』が悪魔だって?」

僕はわが耳を疑った。