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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕が懐中電灯の光でほんの一瞬間ではあったが観察したところでは、この男の顔はすっかり青ざめ、唇の色も変り、大きな口をダラリと開き、両眼を白く剥いていた。そして背中には短刀のようなものが相当深く肉の上に突き刺さっていた。そこまで見たときに、連れの男から石のように硬いメリケンを喰らったのであった。
次に四ツ木鶴吉らしい男の特徴ある手首は、現場から程遠からぬ横川橋四丁目の油倉庫の火災現場に於て発見された。しかしこれは発見されたというばかりで、発見者が火中から取出そうとして長い木片を探しに行った遑に、どこかへ行って見えなくなってしまった。手首だけが火中に投げこまれるというのは可笑しいことであって、前後の模様から察すると、亀井戸の魔窟の附近で殺害された四ツ木屍体は、この油倉庫の火事場に投げこまれて全身灰になってしまったのであろう。手首は火の廻りかなんかの加減で、燃え残っていたのではなかろうか。その前に、焼け落ちた棟木かなんかのために、手首だけが切断せされて、火の廻りの遅いところへポーンと飛んだということも考えられる。なんにしても、四ツ木鶴吉の殺害は、動坂三郎の推察どおり九分九厘までは事実と見るより外ない。