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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

町子の話によると、千代子は今、誰からも保護を受けていないそうである。その日からの生活に困って、こうして夕刊売りとなったが、夕刊売り場の縄張りを持つ「深夜の市長」一味の者のために、「動坂三郎に使われていた者の妹じゃないか」というので、よい場所に立つことを阻まれたそうだ。また動坂三郎は動坂三郎で「乾分たちへの見せしめもあることだから、気の毒ながら裏切り者の妹へ合力をするのは困る」といって婉曲に保護を断ったという。それを聞いて僕は更に義憤を覚えた。それでなにがしかの紙幣を、遠慮する千代子の手に握らせ、そこを立ち去ろうとした。

そのときだった。橋の向うから、リンリンリンと冴えた鈴の音を騒がせながら、号外売りが駈けて来た。

「うおォ、号外だ、号外だ。……新聞の号外だ。さあ大変大変、えれい事が始まったぞおォ。……うおォ、号外、号外!」

何新聞なのか、生憎新聞名がハッキリしなかったけれど、号外売りの声の上ずった呼び声は、号外を買わずにはいられないような不安の想いを抱かせるに充分だった。

「オーイオーイ、号外を呉れエ」

号外売りは喰ってかかるような恰好で、こっちへ飛んできた。