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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
奥に反りかえっているデップリ太った赧ら顔の人物は、これぞ市会の大立者、動坂三郎氏だった。それはまあいいとして、床の間を背に、すこし青褪めている格幅のいい無髯無髭の人物は誰だったろうか。それこそ先刻の号外で重傷或いは既に死亡を伝えられたT市長男爵高屋清人氏ではあったではないか。僕は自分の眼を疑った。こんな愕きがあるだろうか。ピストルで自殺をした筈の市長は、見たところ何処に繃帯をしているわけでもなく、負傷に痛みを怺えている様子もなかった。――このとき、有名な黒い鉄縁の眼鏡をかけた黒河内総監が腰を上げて僕の前まで出てきてくれなければ、僕はもっともっとT市長の顔を見詰めていたろう。
「はッ、これは総監閣下でいらっしゃいますネ。これをお届けいたします」
「いや御苦労……」
総監は封を切って、中から毛筆で細かく書き込まれた罫紙綴をペラペラとくって読んでいたが、やがてそれを元のように封筒に収めて袖に入れた。それから僕を市長と動坂氏とに紹介した後、
「では君、オブザーヴァとしてこっちへ来て、僕たちの会談を聞いていて呉れ給え。場所柄、野暮くさいのは禁物だよ。いいかネ、はッはッはッ」