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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「ほう、幽霊……。つまり幻影を見るんですネ」
幻にしろ本物の人間にしろ、溶鉱炉に飛びこんだと聞いてはいい気持はしなかった。それをきっかけに、僕は勘定を台の上に並べて外に出た。街は雪に睡っている。……
僅かのアルコールに僕の元気はすっかり恢復した。さあ何でも向って来い、だ。しかし困ったことに、司法官試補浅間新十郎と探偵作家黄谷青二との両人格がすっかりごっちゃになってしまって、なんだか妙な気持だ。
間もなく僕は、円タクの中に自分自身を発見した。オヤオヤと思ううちに、「へえ参りました」という運転手の声と共に下されてしまった。一体ここは何処だろうと見廻すと、煉瓦造りの建物が立ち並んでいるあたりにどうやら見覚えがある。
「ほほう。してみると、これは丸の内十三号館の近所に違いない」
僕の潜在意識が、円タクをここへ命じたのであろう。丸の内の十三号館、大いによろしい。今夜こそ、あの街の科学者速水輪太郎をとっちめて呉れるぞオ。
少し酔ってはいるが、記憶は確かだった。十三号館はこれだ。こっちに横丁もある。空気抜きの窓もあった。手をさしこんでみると、なんだか位置が違っているように思ったけれど押し釦もあった。