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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
さっきはアルコールの匂いをプンプンさせて、階段の下に仆れていたよ」
「あッ、そうですか」僕は赭くなった。「しかし一体貴下という仁は昼間は何処で何うして暮しているんです」
「およしよ。兄ちゃん!」突然横合からお照が口を出した。虎御前は祝い酒を聞こし召しているらしく、鼻に懸った声を出した。「余計なことを云いだすと、あたしが黙っちゃいないよ」
「おお、お照さん」僕はムカムカとしてきた。「僕は検事局の命令により君を逮捕することが出来るんだぜ」と云ってしまってから、僕は浅間しい威嚇をしたものだと恥かしくなった。
「なんだって? あたしを捕えるんだって。ヘン笑わせるじゃないか。なんだってあたしを捕えるんだい」
「知れたことさ。君は今夜、門前仲町の待合、紅高砂の前でピストルを撃ったじゃないか。撃っただけじゃない。高官に重傷を負わせた。その高官は誰だったと思っている。警視総監の黒河内さんを君は狙撃したのだぞ」
「いけすかないよ。この人は……。そんな脅しの手に誰が乗るもんかネ。あたしには警視総監なんぞ狙うわけはないんだよ」
お照は不貞腐れて天井の方に嘯いた。しかし内心大いに動揺している様子は隠せなかった。