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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

いつぞや昼間行ったときは、塔の影も形もなかった。しかし目の鋭い者はそんなカラクリのある事は知っているぞ。なぜっていえば、あの中庭の芝草の生え具合を調べてみると、真中に円形をなした部分の芝草だけは他の部分よりも葉が硬くて丈夫だ。その円形をなした部分が、塔の屋根に当る部分なのだ。その円形の芝草は、夜間高空にのぼって、風に当るから、それで自然に丈夫になるんだ。どうだ、愕いたろう。愕いたら、あの隠見式高塔の使命を教えたまえ」

「……」速水は前よりも激しい愕きの色を見せて、首を元の位置に立て直したが、やがて向うから、唇を僕の耳に持ってきて囁いたことである。「それだけ知っていて、あの塔の使命が察しできないような奴は、よほど頭が悪いのだ」

僕は何をコン畜生と思った。そして三度、彼の腹をつッ突いたのであった。

「どうやら『深夜の市長』は病気らしいが、どこが悪いのかネ」

すると速水は今までとは、まるで打って変ったように悄然として僕の方に顔をすり寄せた。

「全く愕いている。先刻貴下も見たろうが、あんな風に、手でシッカリと腕を掴み、脂汗を流し、歯を喰い縛っていられる。非常に痛みがあるらしいけれど、医者を呼ぼうかといっても聴き入れられないのだ。