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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

と思うと今度は反対にサッと蒼ざめた。彼は額に手を当てた。傍にいた第二助役が顔を寄せたと思うと、彼に急にソワソワしだした。それもその筈だった。簡単な手紙と共に僕は封筒の中に、昨夜動坂三郎の懐中から奪ってきたT市の黄金の鍵を入れて置いたのだったから……。

壇上の動坂三郎は、拳を突き出して喚き散らしていた。

「……T市の金庫を、たった今、明けてみせるか、それとも明けられない事情を説明するか?」

「よろしい。……では金庫を明けてお目に懸けよう!」

突如として叫んだのは、中谷助役だった。彼は右手に高く黄金色燦然たるT市の鍵をさしあげた。

議席からも壇上からもウワーッという喚声が起って、議場の天井を地震のように揺すぶった。――そして市会議員たちは、席を立ってわれ勝ちに出口の方に殺到した。それは開扉されようとする金庫の中を、誰よりも早く見たいがためだった。

市長室に据えつけられた金庫の前は、たちまち十重二十重に人垣で囲まれた。遅れ走せに駆けつけた議員たちは、熱狂のあまり、市長の机の上に土足のまま上るものもあれば、それでも入れぬ議員たちは、廊下のところでウンウン犇き合った。