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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「ちょっと待て。いま入口を締めて、明りをつけるから……」
老人は立上ると、狭い入口に向ってなにかゴソゴソやっていた。やがてバサリと上から落ちて来たものがある。それはどうやら継ぎだらけのカーテンまがいのもののようであった。それが済むと、老人は背のびをして、壁土をバラバラ落していたが、やがてパッと天井に思いがけなくも明りがついた。驚いて見上げると、それはどこから電気を引張ってきたのかしらないが、煌々たる自動車用電球らしいものが二本の線と共にぶら下っているのであった。――始めて見るこの狭い穴蔵の中の様子、それは天然の押入といったのが一等適切に云いあらわしているような土窟であった。壁も天然の土壌であるけれど、そこに棚のようなものを刳りぬいて、食器らしいものがゴタゴタと並べてあった。
「さあ、見せて貰うか。――」
始めてつくづくと老人の顔を見る機会を得た。なるほど鬚が生えていると思ったが、まるで鬚の中から眼玉と鼻の先が出ているといった方がいいくらいの、見るからに身体が痒くなるような無精鬚を生やした老人だった。これが「深夜の市長」と呼ばれる人物なのであるか。だが老人の眼は、羊の眼のように柔和だった。