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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
それから同じく殺人現場から拾ってきた懐中時計の時刻の遅れの二時間四十分というものを問題にして、これで事件が解決できそうだと、老人は云った。そしてその解決を得るために、速水輪太郎のところへ、時計と貨幣とを届けろと命令したのだった。その方法として銀座の十銭スタンドへ行って、耳朶にRと入墨のある虎御前を見つけて、それに頼めといった。
考えてくると、それはあまりに猟奇にみちみちた出来ごとだった。僕はこれまでに探偵小説を随分書きもしたが、こん夜のような、猟奇性に富んだ事件を書いたことは勿論のこと、構想したこともなかった。事実は小説よりも奇なりというが、こんなことを云ったのではあるまいか。
それにつけても、最も腑に落ちないのは、あの土窟内に住んでいる老人のことだった。僕の危いところを救ってくれたその老人は、刑事だの遊び人だのから「深夜の市長」と呼ばれていた。あの土窟から出てみると、それは紡績工場とその塀越しの炭屋の倉庫との間に取残された妙な土塊の中の洞穴であったが、ああした変な穴居者が、この整然としたT市の真中に棲息するとは不思議千万なことだった。その「深夜の市長」