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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
懐中電灯の灯りはよくは届かなかったけれど、扉の向うは広い庭になっていた。僕はひとり肯いて扉に手をかけた。それは難なく開いて、懐中電灯の光は、下の方に下りるように設けられている御影石の階段をサッと照した。これを下りてゆけばいいのだった。
内庭の芝地の上に下りたって、僕は奇異な感に打たれた。この庭の広々としたことはどうであろう。見渡したところ、面積は二百坪ほどもあった。土の香りがプンプンしていた。そこはモザイック風のきちんと整った花壇になっていて、花壇の中には春らしい色とりどりの花が咲いていて、いい香りが鼻を打った。また小さいながら、硝子ばりの温室なども立っていた。このような土の香高い庭園がアスファルトの舗装道路をめぐらしたあの宏壮な煉瓦建の建物の中に設けられて有ろうなどとは、外を行く誰人が気づいたことであろう。彼等はあの厳しい赤い煉瓦壁体の中には、古ぼけた事務室と部厚い壁と幅の広い階段と長い廊下のほかに、なにものも予想していないであろう。
僕は庭園の存在に驚歎するあまり、この庭園の中央に建つ風変りな建築物について述べることを忘れていた。風変りな建築物といったが、それはよく町中でみる鉄筋コンクリートの太い烟突を想像して貰えばいいと思うが、それと殆んど同じような感じのする高塔が、庭園の中央に高々と聳えていたの