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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

主人公は依然として器械台に喰いついているように、一向離れる気配が見えなかった。――僕はすこし恐ろしくなってきた。なにかしら目に見えない妖しい糸が僕の全身をグルグルと締めつけているようで、頗る無気味だった。

「ええ、今晩は、――」

たまらなくなって、僕は前よりすこし大きい声で呶鳴るような調子で挨拶した。四囲の壁がワワーンと吠えた。

そのとき始めて、前屈みになっている主人公の肩さきがピリピリと震えたように思った。

「ああーッ。……」と奇妙に嗄れた声が、器械台の前から響いてきた。見たところまだ若いらしいのに、それはまるで七、八十の老人のような声だった。「ああーッ、どうですか、外の気温は……」

「ええッ……?」

僕はこの不意の奇問に面喰った。

「……つまりソノ、今夜は昨夜に比べて温いですか、寒いですかネ」

「さあ、それは……」

と僕が眼をパチクリして、答につまっていると、速水輪太郎氏はやおら腰を伸ばして、ツーンと立った。しかし見れば気の毒なくらい脊柱が曲り、早く云えば著しい猫背だった。そのとき五燭ぐらいの薄明りに、始めて彼の顔を正視したが、それはへちまのように長い顔だった。