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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

うわッ、雨戸をもう一度たててくれ――と、叫びたいような気持に襲われた。

お照はこっちの恐怖にも一向気づかぬらしく、無遠慮に僕の寝床の方に寄ってきた。

「君はなんだってまた僕のところへやって来たのだ。うん、それより君は、何処から僕の家へ潜りこんだのだ。さあそれから云いたまえ……」

と睨めつけると、お照は酒の気のない黄色な顔をずっと前の方に寄せてきて、

「そうたびたび床の下などを、誰が潜るものですか。第一潜って来たって、あれじゃ入れないじゃないの……」と揚げ板のうえの一件を大形に指さし、「表の戸を開けて入ってきたのですよオーだ。なんですねえ、貴郎もだらしがない。昨夜帰って来て、戸締りもしないで……。きっとグデングデンに酔っぱらって帰ってきたのでしょう」

なんのことだ。表の懸け金を懸けることを忘れていたのか。あまりの疲労と睡さについ忘れてしまったのであろう。なんだ、それならばお照にかぎらず、誰でも表から入って来られたであろう。だがまだ変なことが残っていた。昨夜隣りの戸の隙間から見た灯影と、それからあとになって、不図耳に入った泣き声はどう解釈したならばいいのであろうか。