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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
どこにいらっしゃるか、誰も知っているものなんかないわ」
「なに、昼間は所在が知れないというのか」と僕は問いかえした。「一体あの『深夜の市長』という人は、どんな素性の人なのかい」
「まあ、――昨夜も妾に、そんなことを聞いたじゃないの。答は同じことよ。そんなに知りたければ自分でもって尋ねてみるといいわ」
「話して呉れるかネ」
「話しちゃ呉れないわ」
女は、妙に震えた声で、まるで歌でも歌うように、それを云った。
寝床の中から、一向に可笑しくない掛合咄をしているうちに、思わず時間が過ぎた。僕は驚いて、お照に部屋から一時退いて貰うと、寝床からピョンと起き上った。それから大急ぎで洗面をして、洋服に着かえた。そして帽子をつかんで、玄関に飛び出そうとすると、
「ああ、あんたは御飯を食べてゆかないの」
と、お照は僕を呼びとめた。
振りかえって見ると、いつの間にか僕の万年床が奇麗に片づいていて、畳の上がひろびろとしていた。僕はなぜかこのとき、昨夜十銭洋酒店「ブレーキ」で見かけた何とかいった女の子のことを思いだした。あの児は、このお照の生んだ子供なのであろうが、年齢のせいとはいえこの莫迦に世帯じみた女の気持を発見して、恐らくアルコールの気のないときは、この女はいかにも善良であり、あの育ち損ったような女の子も、さぞかしこの母親から愛撫せら