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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
十三
たち夫婦はあの露西亜娘に対しても耻かしくはないか。あなた方が附いていてどうした事ですと、カタリナに笑われても仕方がないではないか。………幸子は、姉が去年大阪駅頭で別れる時に密かに彼女に囁いた言葉、―――「あたしの今の気持では雪子ちゃんを貰ってくれる人さえあれば誰でもよい。又離縁になるにしても一遍は縁づけたい」と、溜息と一緒に洩らしたのを思い出した。そして、間もなく表門のベルが鳴って、雪子が応接間へ這入って来るらしいけはいに、火照った顔を燃えさかる炎の方へうつむけてそッと眼の縁の涙を拭った。
十三
そんなことがあってから二三週間も後だったろうか、―――あの井谷の美容院へは、幸子も雪子も引きつづき出入りしていたので、井谷も絶えず雪子のことを念頭に置いていてくれるらしかったが、或る時行くと、「奥さんは大阪の丹生さんと云う方を御存じでいらっしゃいますか」と云う話が出た。「井谷さんはどうして丹生さんを御存じ?」と云うと、「わたくしは最近ちょっとお目に懸っただけなんでございますが」と云って、この間或る人の出征を祝う歓送会の席上で紹介されたので、話し合って見ると偶その方が奥さんのお友達でいらっしゃることが分り、二人で暫くあなた方のお噂をした。