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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
妻や雪子が時間を守らないのは毎度のことであるから、自分は馴れっこになっているけれども、急勝な井谷を待たすことになっては此方も苛々させられるのが叶わないので、もう出たこととは思うものの、念のために蘆屋へ電話を申込んだが、それが懸らないうちに事務室のドーアが開いて、井谷のあとから雪子も同時に這入って来た。
「やあ、一緒になってちょうどよかった。今電話を申込んだとこやったが、………」
「実はわたくし、お嬢さんをお誘いに上ってお連れして来たんですの」
と、井谷は云って、
「もう時間がございませんから、直ぐに如何でございましょうか。自動車を待たせてございますが」
貞之助は今日の会合のいきさつに就いて、妻から一と通りは聞かされていたけれども、さっきは電話のことであったし、それに丹生夫人と云う人も、名前は知っているけれども実際には会ったことがあったかなかったかハッキリせず、何となく五里霧中で引っ張り出された形であった。で、今日の相手がどう云う人で、井谷とどう云う関係にあるのか、途々車の中で聞いて見ると、わたくしもよくは存じませんから委しいことは丹生さんにお聞きになって下さいまし、と云うのであったが、では丹生夫人とあなたとはどう云う御関係ですかと問うと、あの奥さんとは極く最近のお附合いなんでして、今日お目に懸りますのが二度目なん