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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「雪子ちゃん出えへんの?」

「さあ、どうでございますやろ、私が出て参ります時はウロウロしていらっしゃいましたが、………」

「何で自分で出えへんのやろ、可笑しな人やわ雪子ちゃんは」

幸子はまずいことになったと思った。雪子の電話嫌いは一族の間では有名になっているので、めったに彼女に懸って来ることはなく、懸って来ても大概誰かに代って貰って、余程のことでなければ自分で出ず、又今迄はそれで済んでいたのであるが、今日はいつもと場合が違う。どう云う用件か知らないが、橋寺が特に彼女に懸けて来たのに、取り敢えず当人が出ないと云う法はない。幸子が代りに出たのでは却って変なものになろう。十七八の小娘ではあるまいし、………羞かしいとか極まりが悪いとか云うことは、雪子の性質をよく知っている姉妹たちにだけ分ることで、世間には通らない。もし橋寺が侮辱されたと思わなかったら幸いである。それにしても、雪子は結局渋々ながらも出てくれたであろうか。が、待たせた揚句いやいやながら出て、例のはきはきしない応対をしたのでは、―――電話の時は一層そうなる人なのであるから、―――それも事毀しで、そのくらいなら出ないでくれた方が優しかも知れない。